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注目すべき技術やイノベーショントレンドに関するアナリストの見解を提供

定置型燃料電池技術の開発動向分析

Jinze Dai, Ph.D., Analyst

定置型燃料電池は、水素や、メタンなどの炭化水素を電気に変換する電気化学デバイスです。燃料電池は、分散型電源やバックアップ電源、独立型電源(オフグリッド電源)、時には電力会社規模の電力生産にも利用されることがありますが、こうした定置用途で利用される燃料電池には、粒子状物質や窒素酸化物(NOx)の排出やノイズを伴うことなく、ランキンサイクルの火力発電システムを上回るエネルギー変換効率を得られるという特徴があります。脱炭素化の観点から、燃料電池が今後、製造業向けや家庭用、商業用電力の市場における低炭素水素の普及を促進することが予想されており、化石燃料ベースのボイラーや発電機セットと競合するようにもなると言われています。こうした要素を背景に、今、定置型燃料電池には、投資家や技術開発企業からの関心が寄せられています。

定置用途に利用できる燃料電池としては、固体酸化物形(SOFC)、プロトン交換膜形(PEMFC)、リン酸形(PAC)、溶融炭酸塩形(MCFC)、アルカリ形(AFC)の5種類があります。これらの仕組みには、電解質や反応化学、温度の点で違いがありますが、従来型の燃焼を伴うソリューションにくらべ、システム寿命が短いうえに資本コストもかさむといった、共通課題もあります。ラックスリサーチでは、定置型燃料電池に関する技術開発動向や開発企業の分布状況を包括的な概観として示せるよう、特許活動や学術論文、黎明期における投資や進行中のプロジェクトについて時系列的に捉えたうえで、主要な技術開発企業に関する分析を実施しました。この情報は、今後のトレンド定義に資するものであり、何より、定置型燃料電池企業とのビジネスを検討する企業が事業機会を特定する助けになると考えています。なお、低温型PEMFC研究の多くがモビリティ用途を想定していることから、本分析のPEMFCカテゴリーについては、高温型PEMFCHT-PEMFC)に重点を置く研究機関のみを挙げている点、ご留意ください。

A graph showing stationary fuel cells players by region and a bar graph showing stationary fuel cells players by technology

  • アジア太平洋地域では大手企業、EMEA地域では研究機関、南北アメリカでは中小企業に強み。地域間の違いについては、技術開発企業の絶対数の差異というよりも、どのような企業タイプが優勢であるかという点で重要な違いがみられます。アジアでは、自動車OEMメーカーや重工業産業の日韓コングロマリットが燃料電池の開発や製品化に長く携わっており、特許件数でトップに立っています。一方、欧州の研究機関では、燃料電池研究のポートフォリオが多岐にわたっており、学術論文も多く出されています。研究成果のうち、中国の研究機関によるものもかなりのシェアを占めています。南北アメリカ地域は、中小のトップ企業を擁しており、Bloom EnergyFuelCell Energyなど、資金調達力に強みをみせる上場企業も存在しています。

  • SOFCはイノベーションが最も盛んで、これらは中小企業や研究機関が牽引。SOFCは高効率で、燃料の柔軟性があり、高温の熱と電気を供給する能力を持つことから、大規模展開や多用途展開に有用で、定置型燃料電池分野の中小企業や研究機関のうち半数以上がSOFCに取り組んでいます。学界や中小企業の間ではSOFCへの関心や取り組みが非常に多くみられますが、米国エネルギー省のSOFC ProgramEUHorizon 2020 programなど、政府機関からの資金提供下にある特化研究プログラムに起因している部分もあります。

  • 大手企業の定置型燃料電池へのアプローチは多様。たとえば、Doosan2014年にClearEdge Powerを買収し、世界最大のPAFCサプライヤーとなりました。また、Cumminsは、2019年のHydrogenics買収によりPEMFCの展開を前進させており、SOFCの開発についても米国エネルギー省から助成金を受けています。Phillips 66SOFCを自社で開発しており、米国エネルギー省からの資金援助も受けています。Poscoは、巨額損失の後に、MCFC事業から撤退する意向を表明していますが、韓国においては電力会社規模の展開を進めるために、FuelCell EnergyからMCFCの技術供与を受けています。

A market map showing the key players in five different stationary fuel cells technologies

  • 固体酸化物燃料電池: SOFCは作動温度が600°C1,000 °Cと高く、炭化水素ガスの内部改質が可能であるため、天然ガスやバイオガス、低純度水素などの燃料で動作することができます。熱電併給 (コージェネレーション:CHP)の場合、SOFCの発電効率は最大で60%、熱供給を合わせた総合効率は最大90%に達します。SOFCでは、電池構成材料の劣化や(クロム蒸発によるカソード被毒など)発電以外の問題を改善して長寿命化を図るイノベーションや、電解質材料のイオン伝導性をあげて電力密度の改善を図るイノベーションに活動が集中しています。しかしイノベーションが盛んに図られる一方、製品として完成されたものを提供している企業は多くありません。Bloom EnergySOFC領域でトップに立つ企業であり、2020年には79,400万ドルの収益を上げています。またMitsubishi Powerが、SOFCとマイクロタービンのハイブリッドで250kW級のシステムを提供しているほか、Kyoceraは、家庭用に0.7 kW、業務用に3 kWSOFCを販売しています。Ceres Powerでは、スチールを用いた低温SOFCの開発に取り組んでおり、Convion は、Elcogen製固体酸化物スタックを活用しつつ、自社リソースをシステム設計・開発に集中させています。ドイツのSOLIDpowerや米国のRedox Power Systemsも注目すべきスタートアップ企業です。

  • プロトン交換膜燃料電池: PEMFCは技術成熟度や負荷追従性能が最も高いため、燃料電池電気自動車(FCEV)用途において最も選ばれているオプションですが、大規模な定置用途の場合には、水管理や、低作動温度時(約80°C)に生じる(COH2Sといった)燃料中の不純物による白金触媒の被毒といった問題があり、難点が多い技術です。ToyotaHondaNissanは、PEMFCの開発に多額の投資を注ぎ、知的財産やノウハウを豊富に積み上げてきましたが、PEMFCkW級からMW級へ拡大させる明確な道筋はついていません。唯一の例外は、フランスでPEMFCベースの1MW級電力システムを展開しているBallard Power Systemsです。また、Plug Powerが、バックアップ電源用の定置用PEMFC製品を発売しており、Toshiba100kWPEMFCモジュールを提供しています。20213月には、Loop Energyが、定置用燃料電池モジュールの初出荷をスロベニアのEcubes向けに実施しました。また、Advent Technologiesでは電解質に新材料を用いた高温PEMFCの開発に取り組んでおり、水管理の簡素化や、燃料の柔軟性の向上が実現される可能性があります。

  • リン酸燃料電池: PAFCは、電力密度の低さからシステムサイズが大型で、作動温度が150°C200°Cと高く、また、PEMFCと比べてCO耐性も高いため、定置用途に適しています。DoosanPAFCメーカーとして圧倒的な優位性を確立しており、ClearEdge PowerUTC Powerの買収により取得した技術やアセットを用いて460kWのシステムを提供しています。また、Fuji Electric100kW PAFC製品を提供しています。現時点ではPAFCのほとんどが、米国および韓国で導入されています。

  • 溶融炭酸塩燃料電池: MCFCSOFCのように、作動温度が600°C700°Cと高く、高効率(50~60%)で、燃料の柔軟性も備えていますが、スタック材の耐久性については改善が必要とされています。MCFCについては、唯一目立った動きがみられるのがFuelCell Energy で、2020年に7,090万ドルの収益を計上しています。同社は現在、カリフォルニア州トゥーレアリで出力2.8MWのバイオガス発電所、コネチカット州グロトンおよびカリフォルニア州サンバーナーディーノで出力8.8MWの発電所、ニューヨーク州ヤップハンクおよびコネチカット州ダービーで電力会社規模のプロジェクト、カリフォルニア州ロングビーチでトヨタの水素プロジェクトなどを手掛けています。また、注目すべきこととして、MCFCの炭素回収技術としての開発があります。FuelCell EnergyExxonMobilと提携し、MCFCの活用で、火力発電の排ガスから二酸化炭素を回収する実証実験に取り組もうとしています。

  • アルカリ燃料電池: AFCは、コストが抑えられるKOHを電解質に用い、負極ではニッケル、正極では炭素担持銀などの非貴金属を電気触媒として使用するため、5種類の中で最も資本コストが低い燃料電池です。しかし一方で電力密度が低く、また、電解質が二酸化炭素と反応して劣化しやすい性質もあります。そのため、AFC領域のイノベーション活動では、高イオン伝導性でCO2耐性の高いアニオン交換膜の開発に最も関心が集まっています。今後の動向に注目すべきAFC企業に、英国のAFC Energyがあり、同社は2020年に初の商業受注を150万ドル規模で獲得しています。また、GenCell Energyは、バックアップ電源、独立型電源用アルカリ燃料電池の開発を手掛けています。

 

全体として、燃料電池の定置用途での普及に関しては、SOFCとPEMFCの二種に、最も優れた将来性がうかがえるといえるでしょう。Bloom Energyの調達資本が数億ドルにのぼり、政府機関からも何億もの資金提供が研究開発に向けられるなど、SOFCには莫大な投資が注がれており、こうした投資が今後、SOFCの製造コストを削減し、製品寿命を向上させていくことになるでしょう。PEMFCには、モビリティ用途での実績がすでにあるため、高純度の水素や排ガス浄化システムがあれば、Ballard Power SystemsPlug Powerといった企業が、150kW以下の定置用発電システムをPEMFCベースで展開することは難しいことではありません。しかし、今後成功を収めるのはどのタイプの燃料電池なのか、そして燃料電池が従来型の発電ソリューションとの比較で勝る可能性や領域について、企業はいつ検討をはじめるべきなのかといった問題についてはどうでしょうか。ガスタービン火力発電はとにかくスケーラビリティや信頼性が高く、費用面も安価に抑えられるため、数百MW、あるいは数十MW級の発電でも、今後10年は燃料電池に勝ち目はないでしょう。しかし、データセンターや通信基地局、マイクログリッドといった、バックアップ電源や独立型電源の小規模マーケットの中には、燃料電池が伸びつつある市場もあります。分散型発電や製造プロセスに関しては、セクターカップリング向けに熱供給可能なSOFCMCFCが有望です。その一例となるプロジェクトが、「水素」「電力」「水」の3つの資源を生み出すFuelCell EnergyのTri-Genプロセスで、排水処理場からのバイオガスを燃料に稼働する、ロングビーチのトヨタの燃料電池自動車設備で使われています。

燃料電池の行く末は、水素経済の発展と密接に結びついています。定置用燃料電池の資本コストや技術成熟度といった要因に加え、水素に関する費用面の高さや不十分な供給量、インフラの欠如といった現状が、燃料電池の需要拡大の一層の伸びを阻んでいます。しかし、燃料電池の開発が、水素経済の進展を大きく左右する要素というわけではなく、逆に、水素経済の進展が、今後の燃料電池にとっては大きな影響となっていくでしょう。また、エネルギー分野における低炭素水素の普及が進めば、定置型燃料電池にとっては、家庭部門、産業部門への熱電併給に関するビジネスチャンスになるといえるでしょう。ディーゼル発電機セットや中小規模の産業ボイラーの入れ替えを考えている企業は、SOFCやPEMFCを中心とした定置型燃料電池の開発企業の採用についても、費用面・性能面での指標を踏まえて検討を行うべきでしょう。長期的視点で企業がモニターすべき領域としては、水素経済の成長および、SOFC向けの堅牢なスタック材や高温PEMFCといった、創造的破壊の可能性を秘めた燃料電池技術などが考えられます。

 

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※本ブログ記事は、英文の記事を翻訳したものです。原文記事はこちらからご確認いただけます。

 

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