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電力分野におけるベンチャー投資動向:2020年版アップデート

Patricia Seoane da Silva, Senior Research Associate

ラックスリサーチのエネルギーチームは、以前、アジア太平洋、ヨーロッパ、北米の主要な電力会社によるスタートアップへのベンチャーキャピタル(VC)投資と買収取引を調査しました。(『Utility of the Future (電力会社の未来)』レポートや2018年のVC投資レポートを参照してください。)この種類のデータは、トレンドを描き、電力会社の主要な関心分野を特定し、世界中で最も活発な電力会社と地域的をマッピングするために重要です。 ただし、2020年はパンデミックの影響で前例のない年となり、石油需要が20%減少し、電力消費量が5%減少するなど、エネルギー部門に多大な影響を与えました。そのため、この分野もCOVID-19の影響を受けている可能性があります。実際、2020年を通してのVC投資は実際どのような傾向を見せたのでしょうか?

過去と同様のアプローチを採用し、ラックスリサーチは、2020年の電力会社によるVC投資を調査し、過去2年間にクローズされた案件と比較して、主な傾向や世界中の電力会社の関心領域、および今後大きな変化がもたらされうる分野を特定しました。 以前の分析と同様に、この調査の結果は、電力会社ごとの投資案件の数に基づいています。つまり、同じ会社が2回投資を行なった場合は、2つの案件としてカウントされます。 2つの電力会社が同じ投資案件に参加した場合も同じように数えられます。

また、調査対象となった電力会社も過去同様に、アジア太平洋、ヨーロッパ、北米の電力会社上位5社と、興味深いイノベーションを行なっている各地域の多数の「ワイルドカード」企業で構成されています(下の地図を参照)。 また、選択した電力会社の子会社または関連グループ(National Gridのベンチャー部門であるNational Grid Partnersなど)を通じて行われた取引も含まれます。

Lux Research Utility Venture Investment

過去3年間にこれらの企業が行った取引の数を見ると(下の図を参照)、ヨーロッパの公益事業が引き続き最もダイナミックであり、北米の公益事業が2018年以来の総投資数が最も少ないことがわかります。 ヨーロッパの公益事業が他地域より活発で革新的なソリューションを模索している背景として、主にヨーロッパの電力市場の規制緩和が挙げられます。一方、米国では多くの州で電力市場は規制されており、電力会社間の競争は最低限であり、結果的にスタートアップ投資が奨励されることはなく、VC投資の数が減少しました。 バイデン政権がこれらの課題に対処するかどうかは未だ未知数ですが、現在のところ、北米の電力会社は、再生可能エネルギーポートフォリオの拡大にほとんどの努力を集中し続ける可能性が高いと考えられます。

Lux Research Utility Venture Investment 2018 to 2020

一方、アジア太平洋の電力会社は、2016年から2018年にかけて投資数を着実に増加させた後、VC活動を徐々に減らしてきました。昨年のデータはCOVID-19の影響を受けている可能性がありますが、 この地域の電力会社による投資数の最近の増減に影響を与える要因は複数あります。 まず、東南アジア(シンガポールなど)全体の電力市場の自由化により、革新的なグリッド技術とビジネスモデルに関する勢いが増し、過去5年間でアジア太平洋地域において最も活発な東京電力などの電力会社はピアツーピアのエネルギー取引ソリューソンを開発するElectrifyなどのスタートアップ企業に投資するようになりました。

ただし、アジア(中国など)の主要経済国の電力市場は大部分が国有企業によって支配されているため、全体としてVC投資が減少しています。これら企業は外部市場への参加が制限されるだけでなく、電力会社が差別化努力を行うような圧力が少ないのが現状です。 そのため、電力会社は、スタートアップ企業への投資を行い、自社の商品やオペレーションを革新していこうという意欲に欠いている場合が多くみられます。また、アジア太平洋のVC案件の総数に影響を与えた可能性のある別の要因は、スタートアップへの追加投資ではなく、パイロットプロジェクト(タイのPower Ledgerのデモンストレーターなど)の実施や社内のR&D活動への注目が高まっていることです。

ただし、VC投資の減少を報告している地域はAPACだけではありません。 同様の傾向はヨーロッパでも見られます。 この傾向をよりよく理解するために、本調査では主要なイノベーション分野全体において電力会社が行った投資案件の総数を調べましたが、 一見したところ、「IoTとコネクティビティ」が案件の数で引き続きリードしているため、イノベーションの主要な領域は以前の分析と比べて変わっていません。

Lux Research Utility Venture Investments


過去3年間の最も顕著な違いは、最近の投資が多様なイノベーション分野への分散があまり見られないことです。 代わりに、電力会社は2020年を通じて、少ないイノベーション分野へと注力しています。これには、「取引と課金処理」、「モビリティ」、「商業および産業向け(C&I)電力管理」が含まれます。 「ブロックチェーン」や「ドローン」などの分野は2018年以降VCの注目を集めておらず、「DERMS」などのテクノロジーは2020年には投資されていません。

この結果にはパンデミックの影響が現れている可能性もありますが、技術が成熟したこと(たとえば、太陽光発電や風力発電システム)、または商業的実行可能性を実証できなかったことなどを理由に、近年の特定の技術に対する関心が低下していることも表しています (例:ブロックチェーン)。 実際、投資案件数は2020年に減少しましたが、2018年、2019年、および2020年に電力会社によって報告されたVC支出の合計は比較的類似しており(下の左の図を参照)、実際、2020年が最も金額としては大きい結果になりました。過去数年との差異の主な理由は、Origin Energyが英国を拠点とするエネルギー小売業者Octopus Energyに約3億3000万ドル投資したことによるものです。

Utility Investment Distributions

電力会社からのVC投資を獲得し続けているイノベーション分野を見ると、「IoTとコネクティビティ」と「その他」が依然として最も人気のあるカテゴリです。 後者には、エネルギー事業者の一般的な利益と一致しない企業への投資が含まれます。 最近の例としては、National GridによるEdCast(パーソナライズされたラーニングおよびナレッジマネジメントソリューションの開発者)への3500万ドルの投資CentricaによるMinut(セキュリティに重点を置いたスマートホーム開発者)への800万ドルの投資があります。


「IoTとコネクティビティ」に関しては、これはセンサー、マシン間通信、スマートメーター、データ分析を含む比較的広いカテゴリです。 このイノベーション分野は、2016年にラックスリサーチがスタートアップ買収の分類を開始して以来、案件数で最も人気がありますが、最近の投資は、電力会社が関心を持っているデジタル技術の多様化の高まりを示しています。右上の図は、スマートセンサーやスマートメーターなどのサブカテゴリーが2016年から2018年の間に電力会社のVC投資を多く獲得したものの、過去2年間は出資を受けていないことを示しています。 スマートシティの場合、勢いがあった時期はさらに短く、最新のVC投資案件は2016年にさかのぼります。

それどころか、電力会社はフォーカスをデータ収集からデータ管理・分析にシフトしました。 この傾向は、エネルギー分野でのデジタル技術の採用の増加と一致しており、2015年頃にスタートアップ活動が活発化し、デジタル技術を開発する企業数が急激に増加しました。同業他社との差別化を図るために、これらの開発者の多くは、製品をより複雑にし、その結果、より洗練されたソフトウェアプラットフォームとデータ分析が実現しました。 

また投資案件数が増加しているもう1つの分野として、サイバーセキュリティが挙げられます。 2020年には2019年よりもサイバーセキュリティへの投資が少なくなりましたが、2021年のColonial Pipelineへのハッカーによる攻撃のような事件により、電力会社はセキュリティ体制を見直し、ITセキュリティの検出と防御をアップグレードする可能性があります。 これらの投資は、2021年以降に資金の一部を占める可能性があります。

全体として、世界中のトップの電力会社によって行われた最近のVC投資から、2つの重要な傾向が見て取れます。第一に、電力事業はスタートアップに投資する際により戦略的になり、将来の電力網に貢献する可能性が最も高いイノベーションへとフォーカスするようになりました。これは、部分的にはCOVID-19の影響がありますが、変曲点を引き起こすほどではありません。どちらかといえば、パンデミックはすでにあったトレンドを加速させたと言えるでしょう。第二に、デジタルソリューションは電力網のイノベーションの最前線にあり、IoTとコネクティビティ技術は電力会社の間でますます魅力的となっていますが、同時により複雑にもなっています。企業は、デジタル技術が引き続き電力会社によるV C投資を牽引し、新しいコネクティビティオプションなどの並行開発をモニタリングする必要があります。たとえば、5Gは、過去2年間で大規模に展開され、電力分野のデータ伝送の節約に貢献する可能性があります。

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※本ブログ記事は、英文の記事を翻訳したものです。原文記事はこちらからご確認いただけます

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